名古屋地方裁判所 昭和48年(わ)1380号 判決 1973年9月28日
主文
被告人を懲役一〇月に処する。
未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和四八年七月一九日午後二時四五分ころ、名古屋市中区正木町二丁目一番地正木公園において、ブランコ遊びをしていたA子(当時一〇年)に接近し、同女が被告人を避けて逃げるやこれを追かけ、同公園内の石山付近で同女の手を掴んで引っ張り、嫌がる同女を引きずって付近のベンチまで連れて行き、同所で同女を背後から抱きすくめ、両膝で同女の身体(両脚)をはさみつけて同女の背中・腰部・臀部を撫で廻し、同女が嫌がって暴れるやその顔面を平手で殴打する等し、もって同女に暴行したものである。
(証拠の標目)≪省略≫
(累犯前科)
被告人は昭和四二年四月二七日静岡地方裁判所沼津支部において詐欺・傷害の罪により懲役二年六月(未決勾留日数四〇日算入)に、同四五年一月三〇日同裁判所同支部において詐欺・窃盗の罪により懲役一年(未決勾留日数六四日算入)に、同四六年四月七日沼津簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年(未決勾留日数三〇日算入)に、同四七年七月一四日静岡地方裁判所沼津支部において、詐欺罪により懲役一年(未決勾留日数四五日算入)にそれぞれ処せられ、何れも当時刑の執行を受け終ったもので、右事実は、前科調書及び府中刑務所発の検察官宛電信による回答(書)によって、これを認める。
(強制わいせつ罪の成否について)
本件公訴事実は、前示認定の罪となるべき事実と同様の事実に対し、これを強制わいせつ罪に該るとするので、この成否を検討する。
強制わいせつ罪が成立するためには、該行為が主観的客観的にわいせつ性を具備することを要し、それには、その行為が①性欲の刺戟・興奮・満足を目的としてなされたというだけでは足りず該行為が②その外形において、一般人の正常な性的羞恥心を害する程のものであることを要すると解されるところ、これを本件について見れば、前認定の被告人の所為の態様並びに前掲各証拠によって認められる当時の状況からして、右①の要件の存在は優に認められるが、右②の要件の存在を認めるには十分でなく、右被告人の所為自体についてわいせつ性を具備したものということはできない。而して本件全証拠によっても、被告人において、右の所為以上に出て、例えば被害者の陰部、乳房等に手を触れ、或は自己の陰部を被害者の身体に押し当てる等の外形的、客観的にわいせつ性を備えた行為をなす意図であったことを認めることはできず、そうとすれば、前記被告人の行為をもって強制わいせつの実行の着手ありとすることもできないわけである。
よって、本件においては強制わいせつ罪の成立は既遂、未遂共に、これを否定するほかない。
(訴因変更手続の要否について)
本件公訴事実(訴因)は、一三才未満の女児に対する暴行による強制わいせつ行為であるところ、刑法一七六条の規定は右のような場合をも包含し、その暴行々為は構成要件の一部となっていると解されるから、本件において、単に暴行罪の認定をするについては訴因変更手続を経ることを要しないと考える。
(法令の適用)
一、判示事実 刑法二〇八条、罰金等臨時措置法三条一項一号
一、(刑種の選択) 所定刑中懲役刑を選択
一、(累犯加重) 刑法五六条一項、五七条、五九条
一、(未決勾留日数の算入) 同法二一条
一、(訴訟費用) 刑事訴訟法一八一条一項但書
(裁判官 金田智行)